卒業生たちの
超仕事術
新しい工芸のステージを切り拓く工芸学科の卒業生たち。
それぞれのHYPERな仕事術には、あなたたちの明日を彩るヒントが散りばめられている。
最後に「焼く」という工程が入る陶芸は、絵画や彫刻と違って、人の手が届かないところで作品が仕上がります。ときには、焼かれた作品が予想外の姿に変容していることもある。劇的なメタモルフォーゼが起こるこの瞬間を、私は「神の手が入る」と言っています。人知を超えた存在の力を借りて、小さな宇宙を創造する。そんな感覚を味わえるのが、陶芸の醍醐味です。今後は、これまで手がける機会がなかった抽象・具象を分離させた作品をつくってみたい。茶器の制作や、デジタル技術とのコラボレーションにも興味があります。やりたいこと、試したいことは山ほどある。予測できない未来が好きだから、目標は決めません。今の自分が夢中になれることに全力を尽くして、まだ見ぬ領域へと走り続けたいです。
高校時代は日本画で描いていた透明感をさらに磨こうと、ガラス工芸の道へ。光の具合で表情が変わるガラスに、自分の描きたい世界観を閉じ込めることがテーマになりました。追い求める表現を形にできるだけの技術レベルを手に入れたくて、院やN.Y.の大学でも研鑽。アメリカのコーニングガラス美術館が発行する「New Glass Review」の世界ベスト100に選ばれ、憧れだったシカゴのアートフェアにも今では出展するように。陶芸や金属工芸も含め多彩な先生方に学べたことも、創作の柔軟性につながっています。
入社後は、モーターサイクル商材のカラーリングデザイナーを10年間務めました。続いて、CMFG(色・素材・仕上げ・グラフィック)デザインの戦略と方向性を決めるプランナーを5年間担当。今年からは、モーターサイクルの造形を考えて絵を描くプロダクトデザイナーに就任し、プランナーと兼任しています。工芸学科へ進学した理由は、実家が金属加工工場だったこともあり、幼い頃から切削された精緻な質感やメカニカルデザインの魅力に興味をもっていたからです。元々人を驚かせることが好きな性格で、弊社の企業目的である「感動創造企業」に共感して就職を志望しました。在学中に学んだ彫金・鍛金・鋳造の知識や試行錯誤した制作経験は、技術部門のプロフェッショナル達と協業する際に役立っています。多様な素材のCMFGデザインを追及することで、移動体としての機能性と、人の心に響く官能性を対置して成す未来のヤマハデザインに貢献していきたいですね。
もともとイラストを描くことが好きだったんですが、指先で描くよりも手全体で織るほうが楽しいと気づいて。なかでも惹かれたのが、不規則な模様を生みだせる綴織(つづれおり)。この技法で大学時代は絵画的なタピスリーばかり織っていました。だけど次第に、その四角い形状に物足りなさを覚えるように。そんな頃、祖母が遺した老眼鏡を見つけたことで、眼鏡に目を織ることを発想したのです。重厚感の出る綴織の存在感もあってか、目があるだけで生き物のいる気配が出てくるのが面白い。そこからさらに、虫かごやザル、傘や茶こし、虫眼鏡など、日用品に自身の感覚を反映させる表現を模索していきました。独自の道が開けたのも、選べるだけの技法が学べ、多彩な素材に触れ、やってみたいことを試せた大学生活があったからこそ。ふと目にした日常の美しさを、今後も作品に投影させたいです。
サンプルの構造確認から要望されたサイズ展開迄、靴の設計にまつわる仕事をしています。靴のアッパー作製はラストからパターンを平面に展開、パーツを作成し縫製して成型。その一連の作業を工場と共に行い、製品にしていきます。平面から立体にするのは容易ではなく、設計が良くなければ皺が入ったり、足を入れた感覚も左右されたり、店頭に並ぶまで何度もテストを繰り返しています。たくさんのデザインを決められた時間とコストの中で、条件を満たしながら作製していくことは至難の業です。熟練の技術と豊富な経験が欠かせません。職人のような先輩方に少しでも近づけるよう、勉強を重ねる日々です。ものづくりの醍醐味を教えてくれた工芸学科は、職人をめざす私の原点です。創作活動を共にした仲間たちとは今でも連絡を取り、助け合っています。